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第4回 鉄砲伝来は偶然の歴史的事件でなかった。

 学校の教科書などを時々見てみることは、歴史に関心のある方には、勉強になることが多々あります。子供のとき学校で勉強したこととは違っているものも結構あったりするものです。こんな時、歴史学もすすんでいるんだなあ、と妙に感じ入ります。
 しかし、その一方では、依然としてこれは変だぞと思われるものもまたまだ少なくありません。週末歴史家になって以来、小さい部分が妙に気になりだしたからです。
 
 今回は、鉄砲についてご報告申し上げたいと思います。
 鉄砲については、1543年種子島にポルトガル船が漂着し、島の領主種子島時尭が2丁の鉄砲を買い受け、瞬く間に日本に普及し、戦国時代の終焉を加速した出来事として、大部分の日本人にイメージされているのではないでしょうか。
 鉄砲に最初に関心を持ち出したのは、島津氏の鉄砲導入の迅速さと鉄砲を使用した関ヶ原での見事な退却戦、紀州根来衆などに関心を抱くようになって、副次的に興味が出てきたわけです。

 すばり、種子島にポルトガル人が偶然漂着したということは、事実としては間違ってはいないかもしれませんが、私たちがそれから受け取るイメージは、間違っているようです。 そもそも今では学会でも常識になっているようですが、ポルトガル人が乗船していた船は、中国の倭寇 の棟梁王直という人物が案内していたという事実です。これは、倭寇がポルトガル人を日本へ案内していたということを意味してきます。

 ところで当時の倭寇というのは、実質的には中国南部の人々のことで、天草や瀬戸内海の海賊が中国地方に出稼ぎにいっていた初期倭寇の時代とは状況は一変しています。中国王朝が明に変わると、海禁政策といって海外貿易を全面的に禁止したことで、それまで交易で生活してきた人々は、地下にもぐる結果となります。つまり表向きにはご法度になりますから、当局に認可されない形で交易を続ける。貿易、当局に認可されなければ海賊―これが倭寇が発生した原因です。 そもそも海を生活の糧とする人々には、陸のような国境という感覚が希薄ですから、王直などは、長崎の五島列島に住居を置いていたくらいです。彼らにとっては東シナ海全域が、自分の庭のような感覚だったはずです。

 そんな彼らが偶然種子島に漂着したとは、考えにくいのです。最初から種子島を目指してきたのではないのか、私はそんな気がしています。 その根拠として、
1.日本は戦国時代の真っ只中で、武器弾薬は最大のビジネスチャンスを生み出すこと、 
2.種子島は、古来より砂鉄の産地として有名で、鉄砲という新しいハイテク機器を生産していくには、条件は整っていた ということが考えられます。種子島の鉄製品は、現在でも非常に優秀で評判がよい地場産業であることはあまり知られていないようですが。
3.この地に紀州根来寺の津田監持という人物がおり、種子島時尭が高額で入手した2丁のうち1丁を津田に分け与えている事実。―この事実は、種子島氏と紀州根来寺との深い関係を語っており、さらには、薩摩半島の突端の山川港(古来より遣唐使船などの船泊りとして発展し、薩摩時代には蜜貿易港として栄えた)にも紀州根来寺の支店があつたようで、ビジネスネットワークが東シナ海一帯の広域に広がっていたことを示唆しているようです。 倭寇の棟梁王直としてみれば、鉄砲を売り込み、さらにその鉄砲に必要な硝石を売り込む、こんなビジネスプランがあったのではと思えてくるわけです。

 当時硝石は中国からの輸入に頼らざるを得ず、海外貿易港の堺がクローズアップされてくる一つの要因と考えられます。少量ですと、人糞、土、藁などを利用して硝石を抽出する方法もあったようで、毛利元就などは、この手を利用して火薬を生産していたこともわかっています。しかし圧倒的に中国からの輸入です。毛利元就が京都へ視線がいがず、専ら博多へ視線が注がれていく背景も、ひとつはこのあたりも絡んでいるとおもいます。つまり、海外貿易への視点です。元就もいち早く鉄砲を導入しています。また、彼の配下には瀬戸内海交易、さらには海外との交易に関わっていた武将たちもかなりいるわけで、早い段階から東アジアのなかでのダイナミックな歴史の変動の鼓動を感じ取っていたのではないかと思っています。それが彼が天下とりにあまり意欲を示さなかった大きな理由と見ています。

 鉄砲は瞬く間に、日本に広がり、かの有名な長篠の戦で歴史の教科書には登場していくことになるわけですが、実は、日本に広く普及していくことになった鉄砲は種子島伝来のものではなく、別系統の伝来のものだった、といえば、皆さんはいかがでしょうか。この件に関しては、別の機会に譲りたいと思います。

 
 


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